今回は、ミステリーというより、”ホラー”、それも”ゴシックホラー・スリラー”な「映画」のご紹介です。
すでに、3回ほど繰り返し見ています。すごく怖い、けど、美しく、哀しい映画。
それが、「アザーズ」です。
なにしろ、ニコール・キッドマンが一番美しいときではないかと思われるほど、完璧な「美」そのもの。
彼女の「美」がアザーズの「核」なので、彼女がどんなに怖がろうが、叫ぼうが、泣こうが、映画の「美」が崩れることはないのです。
「アザーズ」ってどんな映画?光を遮断した屋敷の秘密
「アザーズ」は、2001年のアメリカ・スペイン・フランス合作のサイコロジカルホラー・スリラー。
舞台は1945年のイギリス海峡・ジャージー島にある大邸宅。光アレルギーの子どもを抱えて昼も闇の中で暮らす母親グレース(ニコール・キッドマン)が、怪現象に怯えながら謎に迫るという物語です。 日本公開は2002年4月27日。
1945年、ジャージー島の大邸宅で起きること
グレース親子が住む邸宅は、なにしろ広い。そして、常に敷地内には霧が立ち込め、一度も太陽が登場するシーンはありません。
その邸宅の中で、夜な夜な怪奇現象が起こるという設定なのですが、この撮影場所は、スペインのカンタブリア地方にある「パラシオ・デ・ロス・オルニーリョス」で、1904年にロンドンの建築家ラルフ・セルデン・ワーナムが設計した建物。スペインには珍しいヴィクトリア朝様式の建築で、撮影に最適でした。
ただし、霧の中でグレースが夫と再会するシーンだけは、ケント州のペンズハースト・プレイスのライム・ウォークで撮影されています。
監督はスペインの鬼才 アレハンドロ・アメナーバル
この映画を語るうえで、監督が非常に重要です。
アメナーバルは、1972年3月31日、チリのサンティアゴ生まれ。父親はチリ人、母親はスペイン人で、1歳のときにスペインへ移住。チリとスペインの二重国籍を持つ映画監督・脚本家・作曲家です。
23歳だった1996年に初長編作品『テシス 次に私が殺される』を監督し、ゴヤ賞で新人監督賞と脚本賞を受賞。1997年の『オープン・ユア・アイズ』はベルリン国際映画祭や東京国際映画祭でも高く評価されました。
「アザーズ」は彼の初めての英語長編作品で、古典的なゴシック・ホラーを現代に復活させたもの。
しかもアメナーバルは脚本・監督・音楽のすべてを手がけるという鬼才ぶりです。
映画「アザーズ」の特徴と評価
アメナーバル自身が「絶叫の映画ではなく、ささやきの映画」と表現したように、本作は派手なスプラッターや特殊効果を一切使わず、屋敷の薄暗い空間と登場人物の心理描写だけで恐怖を積み上げていく、非常に抑制的な演出スタイルが特徴です。
製作費1700万ドルという抑えた予算ながら、世界興収2億1000万ドルという大ヒットを記録。ゴヤ賞(スペインのアカデミー賞)では作品賞・監督賞を含む8部門を受賞し、スペイン語が一言も使われていない映画として初めて同賞の作品賞を受賞した歴史的作品でもあります。
ニコール・キッドマンはゴールデン・グローブ賞主演女優賞にノミネートされ、サターン賞で主演女優賞を受賞しています。
「レベッカ」や「回転」と重なる、屋敷ゴシックの系譜

この記事を書く数日前に、NHKBSで放送されたヒッチコックの「レベッカ」を久しぶりに見ました。この映画も3回ほど見ています。ゴシック映画の古典ですね。
レベッカという女性が一度も登場しないのに、まるでまだその屋敷に住んでいるかのように存在を感じさせる。ローレンス・オリビエとジョーン・フォンテーンの二人の主役を脇役にするような、姿のないレベッカの強烈な存在感に圧倒されました。
アメナーバルは、こういった古典的なゴシック映画をベースにして、しかもリスペクトも感じさせる撮り方をしているように思えます。
前述した「ささやきの映画」というのも、音楽の使い方でわかります。
最初、この映画は音楽がないのかと思えたほど、音というのが、ドアの開け閉めや足音など、生活音や環境音だけ。でも、意識するとかなり抑制のきいた音楽が控えめに流れているんです。それと気が付かないくらいに。。
それもすべて、アメナーバルが自分で曲を作っているので、シーンに合わせた音楽を効果的に使うことができたのでしょう。音楽も、屋敷の空間も、闇も霧も、叫びさえもやりすぎない。すべての匙加減がちょうどいい。度を超えない。硬質な、品格さえ感じさせるスリラーです。
ニコール・キッドマンの演技と存在感
アザーズは、ニコール・キッドマンなくしてできなかったのではないかと思わせるほど適役だったと思います。
彼女のエキセントリックな表現も、あの屋敷の空間の中では「動的」な要素として象徴的でしたし、なにより、ニコールの硬質な美しさが、最後まで一気に見続ける原動力になりました。
当時の夫、トム・クルーズはこの「アザーズ」で制作に携わっています。ニコールを推したのはトムだったかと思いますが、「トム・クルーズとニコール・キッドマンが加わったとき、この映画の運命が変わったとわかった」とアメナーバルは語っています。まさに適役だったんですね。
さいごに
「アザーズ」は、美しくて、哀しい映画です。
痛ましいとも言えるかもしれません。
アメナーバルがこの映画を撮ったとき、まだ29歳だったということが、私には衝撃でした。
彼が、トム・クルーズから自作「オープン・ユア・アイズ」のリメイクのオファーを断って、代わりに撮ったのが本作です。ちなみにそのリメイクはキャメロン・クロウが監督して「バニラ・スカイ」になりました。
当時のクルーズはアメナーバルの前作を見て「アドレナリンが体中を駆け巡った」と語り、製作総指揮として支援。ニコール・キッドマンが主演することになります。
ということは、トムが「オープン・ユア・アイズ」を見ていなければ、ニコールが「アザーズ」に出ることはなかったかもしれない、ということになりますね。
「アザーズ」の撮影は2000年に行われましたが、トムとニコールの離婚発表は2001年2月。二人の離婚成立は、アザーズ公開の2日前(2001年8月8日)だったということです。
コメント