
アメリカの刑事ドラマに比べると、どうしてもイギリスのドラマは地味な印象があります。
その中でも特に、「刑事フォイル」は時代設定が地味、です。
たしか、テレビでシリーズが始まったとき、「戦争中でも殺人事件は起こる」というコピーを見たような気がします。このコピーはとても印象に残りました。
戦時中は、空爆をを受けたりして、街中でも人が死にます。
でも、戦争中でも犯罪は起こり、殺人事件もあります。事件があれば、警察が犯人を捕まえるために捜査します。
「刑事フォイル」のような、戦争という非常時の中で起こる犯罪を扱う刑事ドラマは、ほかのミステリーとは犯罪の種類も違います。
戦争中は、先の見えない不安で、人の気持ちも荒んでいたり、投げやりだったりすることもあったでしょう。
そういうときにフォイルは、一つ一つ丁寧に事件と向き合う。
誠実に自分の職務を全うしようとする。
そういう姿勢に、救いと希望を感じとることができます。
だから、「刑事フォイル」は、地味だけど、暗いだけのドラマではありません。
「刑事フォイル」ってどんなドラマ?
「刑事フォイル」は、イギリスのITVが2002年10月から放送を開始した本格派犯罪ドラマです。「主任警部モース」の長期シリーズ終了後、その後継として制作が依頼されました。最終話は2015年1月放送で、全8シリーズ・計28話(各話90〜100分)という重厚な作品。
刑事フォイルの舞台となっているのは、イングランド南部の海沿いの町ヘイスティングス。第二次世界大戦中(シリーズ1〜6)と戦後のMI5エージェント時代(シリーズ7以降)を時系列に沿って描いています。
「戦時中のイギリスはみんなが一致団結した」という神話を覆し、戦争がいかに人々を狡猾に、臆病に、また絶望的にさせたかを描き、徴兵逃れ、ファシスト同調者、闇市場、空襲被害を利用した略奪など、当時の暗部に切り込んだ物語が特徴的です。
戦争が「背景」ではなく「主役」
「刑事フォイル」の原題は、「フォイルの戦争:Foil’s War」。
時代が第二次世界大戦中だったということと、その背景で彼自身が戦時中の犯罪事件と戦ったという意味だと私は捉えています。
原作と脚本を書いたアンソニー・ホロヴィッツは、2001年夏にシリーズを創案し、「殺人事件よりも、事件が起きる時代の風景そのものに重点を置く」ことを念頭に、この作品を書いています。
戦時中のホームフロント(銃後)の歴史と神話に昔から魅力を感じていたということもあり、「殺人がほとんど意味を持たない時代に殺人事件を捜査する刑事」というコンセプトが物語の核心にありました。
戦争の退役軍人たちへの敬意から、歴史的な細部を正確に描くことを重視。インペリアル・ウォー・ミュージアムが監修に名を連ねています。
主人公”フォイル”と演じるマイケル・キッチンの魅力

フォイルは寡黙で几帳面、鋭い洞察力と揺るぎない誠実さを持つ。敵からは見くびられることもありますが、権力者や軍に対しても正義を求めて粘り強く戦う人物です。
多くの事件が闇市場や戦争が生み出した混乱に乗じた犯罪に関係しているのも、戦時中という時代背景の特徴です。
フォイルを演じるマイケル・キッチンは、 1948年10月31日、イングランドのレスター生まれ。グラマースクール在学中に舞台に初めて立ち、ナショナル・ユース・シアターとベオグラード劇場を経て、レスター市議会からの奨学金でRADA(王立演劇アカデミー)に進学。1969年に卒業とのこと。(引用元: Wikipedia)
1994年には「To Play the King」でBAFTA主演男優賞にノミネート。映画では「愛と哀しみの果て」(1985年)や、ジェームズ・ボンドシリーズの「ゴールデンアイ」「ワールド・イズ・ノット・イナフ」でMI6諜報部員ビル・タナーを演じています。
フォイルのシリーズが放送終了してしばらくたった頃、映画「愛と哀しみの果て」をテレビで見ていて、突然マイケル・キッチンが出てきたのでびっくりした記憶があります。繊細で美しい、端正な顔立ちが際立っていました。
残念ながら、007シリーズの彼は覚えていません。映画は見たはずなんですが。。
マイケル・キッチンは、それほど個性の強い俳優ではないと思います。「愛と哀しみ・・」でも、とても若かったので最初は気が付きませんでした。それで、録画を止めて写真に撮り、友人に送って確認したほどです。
でも、「刑事フォイル」では、その静かな表現力が強みになっていると感じます。取り調べの時の犯人に対する感情表現や、空軍所属の息子を戦地に送り出すときの微妙な表情が、とても印象に残っています。
フォイルだからそういう表現なのか、それともマイケル・キッチンだからそう演じているのか、彼の存在そのものが、私にとっては、フォイル=キッチンになってしまっているんですよね。
イギリス人は、割合日本人に近い感情表現をする人が多いかと思うのですが、フォイルの微妙な感情の表し方を見落とさないように、編み物の手が止まることも多々あります。
相棒としてのサム(サマンサ)の存在感
フォイルの運転手として、いつもフォイルの一番近くにいる、通称サムことサマンサ・スチュワートを演じるハニーサックル・ウィークスは、フォイルのシリーズ全8作すべてに出演しています。
ウィークスは1979年8月1日、ウェールズのカーディフ生まれ。チチェスターで育ち、ローディーン校卒業後、オックスフォード大学ペンブルック・カレッジで英文学を専攻(上位2位の優秀な成績で卒業)。幼い頃にウォルト・ディズニー映画にも出演経験があり。「刑事フォイル」に関しては、2002年のサム役抜擢からシリーズ全8作すべてに出演しています。
その他にも、私が見た中で「ポアロ」と「ルイス警部」にも重要な役で出ていました。フォイルの時のサムの印象が強かったので、ポアロの時もルイス警部のときも、サムの時と全く違う彼女がいて(俳優なのだから当然なんですが)、自然体で”サム”として存在していた彼女が、綿密な役作りの上でサムを演じていたのではないかと、あらためて感じたわけです。
まとめ
「刑事フォイル」は、派手さとは無縁のドラマです。時代も1940年代ということで、犯人を追跡するカーチェイスというものもありません。若い人には少しシブすぎるかもしれませんね。
なにより、フォイル自身が声を荒げるということが全くなく、と言って、特にストイックな近寄りがたい人物というわけではありません。
サムとのやり取りにはユーモアさえ感じさせることがよくあります。
でも、ある程度人生経験を積んだ人には、フォイルの誠実さや静かな正義感が染みてくる。
戦争という極限状態の中でも、一つ一つの事件に丁寧に向き合い続ける姿に、なぜか救われる気持ちになる。そういうドラマです。
編み物の手を止めて画面に見入ってしまう瞬間が、このドラマには何度もありました。

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