”埋もれる殺意”—静かに、深く、じわりと来る英国ミステリー

作品レビュー
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見終わったあと、しばらく画面の前から動けなかった。
そういうドラマに出会うことがあります。
「埋もれる殺意」はそんなドラマでした。
刺激の強い犯罪ドラマを見慣れている人には、最初は少し物足りないかもしれません。でも、一つ一つ積み上げるような捜査の仕方や、現場での聞き取り、最後の方の犯人(容疑者)の追い詰め方も、とてもリアルで説得力があります。
その捜査を仕切るのが、キャシー・スチュアート警部(ニコラ・ウォーカー)
エキセントリックな犯罪ドラマの中で、彼女の”普通”の感覚が、とても新鮮で、犯罪の裏に隠れた人間ドラマを浮き彫りにさせます。
オープニングの曲が流れたとき、「これは見たほうがいいかも‥」と思えたのは、すでに深いドラマ性を感じていたせいかもしれません。

「埋もれる殺意」ってどんなドラマ?

2015年10月8日にITVで放送開始したイギリスの犯罪ドラマ。脚本・制作はクリス・ラング、演出はアンディ・ウィルソン。
毎シーズン6話完結のミニシリーズで、ロンドンの刑事チームが未解決のコールドケースを追うというストーリーです。

 

オープニングとエンディングには英国デュオ「Oh Wonder」が書き下ろした楽曲「All We Do」が使われており、ドラマの静かな余韻をいっそう深めています。

 

シーズン4まで見終わっても、キャシーのことを忘れることができない。と同時に、テーマ曲が頭に響くんです。
「郷愁」と「忘れることのできない過去」がこの曲に織り込まれています。

キャシー・スチュアートのことが、忘れられない

冒頭でもお伝えした主人公のキャシー・スチュアート警部。

犯罪ドラマに登場する刑事といえば何かしら深刻な問題を抱えているのが定番ですが、キャシーは驚くほど「普通の人間」として描かれています。

 

優秀で冷静、被害者家族への共感が深く、チームから信頼を集む存在。シーズンを追うごとに、仕事と私生活の間で揺れる姿がリアルに描かれていきます。

 

シーズン4では、息子が自宅に戻ってきて、父親が初期の認知症を発症するなど、私生活でも苦しい状況に置かれます。
今までの刑事ものでも自宅での私生活を描くことは多かったけれど、離婚した娘とその父親との生活というのは、あまり見たことがありません。しかも、その娘が殺人課の警部!

 

捜査のことで頭がいっぱいであっても、自宅で父と接するときは、娘として思いやりと気遣いを見せ、時々来る息子たちには、母親としての深い愛情を感じさせます。

キャシー&サニー—このコンビが全て

もう一人の準主役ともいえる、部下であり相棒でもある、サニル・”サニー”・カーン警部補(サンジーヴ・バスカー)
キャシーとの絆はシーズンを重ねるごとに強くなり、シーズン4では「これまでで最も強い」と本人も語っています。

 

シングルファーザーとして子育てをしながら捜査に臨む姿も描かれ、私生活と仕事のバランスが毎シーズンの見どころのひとつです。
シーズン4ではガールフレンドとの同棲が始まり、これまでの「仕事優先・私生活は後回し」というパターンから少し変化しようとしています。
キャシーを演じるニコラ・ウォーカーはこの二人の関係についてこう語っています。
「互いを深く尊重し、必要なときに感情的にも個人的にも支え合える男女のコンビ。こういう関係性はドラマの中でなかなか見られない。そこに戻ってくることをいつも楽しみにしている」

 

撮影中に非常に暗く重い場面が続くとき、サンジーヴの存在がニコラを人間に引き戻してくれると言います。
「本当に深い悲しみが物語に流れているから、ずっとその中にいてしまいそうになる。でも彼のおかげで踏みとどまれる」とニコラ。

 

そしてこの親密さは演技上のものだけでなく、実際にも「最初の日から即座に友情が生まれた」とニコラが語るほど、二人はプライベートでも深い友人関係を築いています。

シーズンごとの事件—どれから見る?

「埋もれる殺意」はシーズン4(amazonプライムでは)まであり、1シーズンが6話完結です。

ミニシリーズなので、1シーズンで1つの事件が解決する内容ですが、シーズンごとの背景に時間の流れがあるので、できたらシーズン1から見ていただいたほうが、ドラマをより深く味わえると思います。

実は友人にこのドラマを勧めたとき、「シーズン1から見てね」と言ったにもかかわらず、彼女はシーズン4を最初に見てしまったようで、ちょっと残念な様子でした。

「埋もれる殺意」のドラマ自体は、シーズン5,6と続き、7も制作が決まっているようですが、私は4までしか見るつもりは(今のところ)ありません。

あまりにもキャシーの存在が強烈に残ってしまったので、この作品のイメージがほかの人の登場で壊れてしまうのが怖いんです。

それから、「埋もれる殺意」のタイトルについた副題が、30年、とか、39年といった数字が少し紛らわしく感じられるのかもしれません。普通なら、「埋もれる殺意 シーズン1」という書き方が一般的でしょう。

でも、この数字は、事件が起こって30年も経ってしまった、39年も経ってしまった、という時間の経過に意識を向けてほしいという表れなのかなと思ってみたりします。

これからご覧になる方のために、(間違えないように)順番を書いておきますね。

 各シーズンの舞台と事件の概要

シーズン 放送年 被害者と発見状況 時代背景
S1「39年目の真実」 2015年 取り壊されたホステルの地下から発見された白骨化した少年(17歳)の遺体から始まる 1970年代
S2「26年の沈黙」 2017年 スーツケースに閉じ込められた状態で発見された保守党コンサルタントの遺体 1990年
S3「18年後の慟哭」 2018年 M1高速道路の工事中の中央分離帯で発見された少女の遺骨 1999年大晦日
S4「30年目の贖罪」 2021年 廃品回収の冷凍庫で発見された頭部と手のない男性の遺体 1990年

見終わったあとに残るもの

ドラマの最初に白骨死体が発見され、その本人を特定するところから捜索が始まります。
そして、唐突に何人かの人たちの描写が映し出され、その人たちが事件に何らかのかかわりがあるということが徐々にわかってきます。

 

このパターンがなかなか独特で、最初は煩雑に感じるのだけど、じわじわとその人間模様が集約されていく様子がこのドラマの深さを表現していることに気が付くのです。

 

キャシーを演じるニコラ・ウォーカーが「去る時が来た」と感じて、「埋もれる殺意」を離脱する決意をしたのは、事件解決のために様々な人生を見ることになるキャシーという人間を、二コラ自身が何年にもわたり、どっぷりと生きてきてしまったからなのかもしれないと感じました。

 

「埋もれる殺意」はAmazonプライムビデオで視聴できます。
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